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Mugaritz ムガリッツ
世界中のレストランに衝撃を与えた、
バスク地方の鬼才シェフ今年20周年を祝った【ムガリッツ】。6月に店の広大な庭で開催されたパーティーには、世界中から名だたる料理人が何百人も駆けつけ、アンドニ・ルイス・アドゥリス氏を祝した。
【ムガリッツ】。その名前は、21世紀に入る頃から、食業界で大きな注目を浴びはじめた。グラスなどを並べずオブジェだけを載せたテーブル、カトラリーを排して手や舌を直接使って味わう料理……。“かくあるべき”という従来のレストラン・コードをこともなげに崩し、ゲストの好奇心を誘い、彼らの五感を研ぎ澄まさせ、独自の世界観で今までになかった食空間を生み出したアンドニ氏。そのスタイルに、世界中でガストロノミーに携わる料理人は刺激され、以後、世界中で、レストランという空間の新たな存在意義が模索されるようになった。
「気がついた? うちには、”レストラン“とどこにも記されていないんだよ」。目をキラリとさせて、アンドニ・ルイス・アドゥリス氏は言う。レストランとは従来、美味しいものを食べる場所であったかもしれない。でもここは、いままでにない食体験ができる場所、食における未知との遭遇を体感できる場所なのだ。
【エル・ブリ】の料理長であったフェラン・アドリア氏に魅了され、【エル・ブリ】や地元バスクの名門【マルティン・ベラサテギ】で修業後、独立。下手なんだけど、と苦笑しつつもバスク語を操り、家族との会話もバスク語だ。アンドニ氏の料理は、強い個性を放つクリエーション。と同時に、どの皿にも、この土地の文化背景が強く宿っている。「何かを飲んだり食べたりするとき、人はもちろん、素材を摂取している。それと同時に、作り手の文化や哲学が生み出すシンボルも食べているんだ。僕はそこに興味を持っている」。シェフのこだわり アンドニ・ルイス・アドゥリス氏
伝統を守り続けるには、逆説的かもしれないけれど、進化が必要だ。自分のアイデンティティを大切にしながら、常に、未知なるものを探求し続け、五感のみならず第六感までを刺激するようなクリエーションをしていきたい。
Column
バスクで忘れてならない サンセバスチャンのバルホッピング
連想ゲームで“サンセバスチャン”と問えば、かなりの確率で“バル”と答えが返ってくるだろう。
旧市街を中心にずらり立ち並ぶ、バル、バル、バル! カウンターにぎっしりと、美味しそうなタパスやピンチョスを並べたバルは、今や、この街のアイコンだ。
朝は、タパスをつまみながらのんびり軽口をたたき合うシニアたち。昼は、働者と観光客がひっきりなしに出入りして大賑わい。そしてバルが最も盛り上がる夜。通りにはバルホッピングを楽しむ人々が行き来し、調べておいたお目当ての店や、賑わいに惹かれて飛び込んだり。カウンターで立ち食いが基本のバル。居合わせた人々と、食いしん坊話題が始まるのもお約束。ここが最後の一軒、と決めていたのに、聞くからに美味しそうなバルが気になり、ついついホッピング続行。こうして、サンセバスチャンの夜は更けてゆく。