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あの名シェフから若き俊英まで 新たな時代を築く
東京中華を追う!
Hitosara special

ここ数年でグルメ界を大きく賑わせているのが、続々と誕生する中国料理店。
その勢いは令和になっても変わらず、2019年も新店ラッシュとなった。
しかも、その多くは中国料理の可能性を示す個性派ばかりだから面白い。
新たな時代の幕開けを予感させる、中国料理の新鋭を取材した。

Photographs by Noriko Yoneyama , Takuya Suzuki , Shinjo Arai , Mami Hashimoto
Text by Shinji Yoshida , Ai Ozaki , Maria Kawashima / Design by form and craft Inc.

  • 「美味しいだけでは何も伝えられない。“本物”の食材を使って、“本物”をお出しする。
    お客様にも、下の世代の料理人にも、本物を伝えたい」と篠原裕幸氏。「中国料理のステータスを高めていきたい」と力を込める

    ShinoiS シノワ

    本場でシェフを務め、辿り着いた
    いま自分がつくりたい料理

     その店名に想いのすべてが込められている。
     白金台に2019年11月にオープンした【ShinoiS】(シノワ)。シェフの篠原裕幸氏といえば、譚彦彬(たんひこあき)氏がプロデュースする【香宮】の料理長を務め、若手の登竜門ともいうべき大会で最優秀シェフに輝いた経歴を持つ料理人。その篠原氏が上海に渡ったのは2017年の夏のこと。上海では【Sober Company】の総料理長を務め、本場に身を置きながら充足の時を過ごした。しかし、およそ2年が経つ頃、篠原氏は再び日本へと戻る決断をする。
     「中国各地の料理が集まる上海という街は本当に刺激になり、勉強になった。でも、中国人は僕らの想像以上に化学調味料に頼った料理に慣れている。その味覚に合わせて料理をつくっていると、『これは自分の料理じゃない』と思うようになったんです」
     【香宮】を離れたときも葛藤があった。譚氏の店だから広東料理をつくるのは当然だが、そのなかで「自分は広東以外の料理をつくってはいけないのか?」と自問するようになったという。そうして岐路に立たされる度、篠原氏はひとつの答えにたどり着く。「誰かに合わせてつくるのでなく、自分がつくりたい料理をつくる」
     フランス語で中国を意味する「chinos(シノワ)」を文字りつつ、「篠原の料理とは?」と自問するように「Shino is」と名付けた。
     コースのはじめに登場する杏仁豆腐は、「杏仁豆腐は、必ずしも甘くなくてもいいのでは」という単純な疑問から生まれた料理。二枚貝の上品で厚みのある出汁で仕立てつつ杏仁の香りを活かした、名刺代わりの一品である。あるいはナマコをラムで巻いたひと皿も篠原氏らしさが光る。「北京ではラムもナマコもよく食べるから、一緒にしたら美味しいかも」とのアイデアが素となり、ネギと醤油のソースでまとめ上げたという。
     日本に戻る直前、一ヶ月かけて中国の地方を旅し、その奥深き食文化にさらなる刺激を受けたという篠原氏。いま持ちうるすべての技術と知識、アイデア、そこに篠原氏だからこそできる感性を落とし込んでつくる料理は、これからの日本における中国料理の新しい歴史をつくっていくに違いない。

    • 幻の羊肉ともいわれる白神ラムにナマコを包み込んだひと皿。北京料理の『葱焼海参』をヒントに北京でよく食べられる羊肉を合わせた
    • 柚子釜に、二枚貝の出汁をあわせた杏仁を葛で固めた一品。【香宮】時代から作っていた料理をブラッシュアップさせた
    • 陶磁器の生産地、江西省景徳鎮の骨董市で手に入れたウェルカムプレート。「座った時に、中国を感じてほしい」と篠原氏

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