新年にこそ味わいたい 珠玉の日本料理 | ヒトサラ
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銀座しのはら
- 「料理は飾らない自分を映すもの」との信念から、心技体すべての鍛錬に余念のない篠原氏。料理への姿勢は真摯だが、人柄は快活で飾りのない好漢。カウンターを挟んだ氏との会話もまた、この店の魅力のひとつになっている
- 『八寸』。正月に合わせたこの日は、胡麻白和え、小肌とラフランスの和え物、卵真丈、鮎のなれ寿司など
- 自身のなかに深く根付くものを、嘘なく提供したいと、鍋には獣肉を選択。寒さに備えて溜めた脂が旨い
- ゲストが席に着き、料理が供されはじめて完成するように計算された設え。曲線のない空間に丸皿や料理が映える
- 日本酒は幅広いが、基本は料理と合わせて相乗効果があるもの。滋賀の食材を多く使うため故郷の地酒も多い
滋賀県で名を馳せた名店が
銀座で新たなる境地を開く魂が込められている――観念的な言葉になるが、凄みさえ感じさせる篠原武将氏の料理を前にすると、そんな思いが浮かぶ。日本中から厳選した素材と、自身を育んだ滋賀の食材。日本料理の伝統技法を大切にしながら、自らの信念もまたまっすぐに貫く姿勢。地に足を張り、包丁を握るその姿は、さながら武士のよう。だからカウンターに座ったゲストも油断はならない。料理を口に運びながら、同時に篠原武将という料理人の人生を味わうのだ。
関西の名店で修業を積み、腕を磨いた篠原氏。滋賀県の里山に開いた店は瞬く間に食通の心を掴み、やがて“日本指折りの料理屋”の呼び声さえも聞こえ始める。しかし2016年、篠原氏は栄光も約束された未来も投げ捨て、銀座にて新たなスタートを切った。「現状に満足してしまっては、それ以上を目指すことはできませんから」口調は淡々としているが、その言葉には確かな決意が垣間見える。
包丁ひとつで旨みを増幅するお造り、田舎の情景が浮かぶような八寸、力強い熊肉や猪肉。緩急自在の素晴らしい展開に、漏れるのは感嘆の声ばかり。この素晴らしい料理と出会えただけで、その一日が特別となる。それが【銀座しのはら】の魅力であり、料理人・篠原武将氏の実力なのだ。 -
乃木坂 しん
- 板場に立つのは店主の石田伸二氏。徳島の名店で15年の研鑽を積み、銀座の和食店では5年を過ごす。その時代に出会ったのが、支配人でソムリエの飛田泰秀氏だ。ふたりの個が合わさり、できることを追求する
- 『焼き物八寸』。鰆の味噌柚庵焼き、あん肝の含め煮、セイコ蟹の外子の玉子焼きなどを、美しく盛り付け
- 『松葉蟹真丈』。卵とわずかな油で食感を滑らかに。蟹の味に、やさしい出汁の旨みと風味が寄り添う
- 飛田氏がセレクトするワインは約120種をオンリスト。自然派や、余韻の長いワインが多く揃うという
- 個室は掘りごたつ式の部屋が2つある。そのほか2つの半個室をつなげて、10名席の個室としても使える
静かに、力強く動き出した
和の料理人とソムリエ1+1の答えが2ではなく、3にも4にもなり、さらなる可能性を見出す。【乃木坂しん】とはそんな店ではないだろうか。店主で料理長の石田氏と、支配人でソムリエの飛田氏。二人は銀座の和食の名店の出身であり、同店のパリへの進出の際には、副料理長と支配人として立ち上げに参画した。 年齢も近く、遠い異国の地で公私をともにし、互いの将来のビジョンに共感。この店をオープンするに至ったのには、そんな経緯があった。
石田氏は「和食の料理人とソムリエという組み合わせは他にもありますが、オーナーがいるわけではなくそれが同等の立場でいる。そういう店は他にはないのでは? そこに自分たちの強みがあるんです」という。
料理は日本料理に忠実ではあるが、おまかせのコースには牛肉も使う。ただし、奇をてらったのではない。「ソムリエがいて、赤ワインも豊富にある。そこに寄り添える和食があったらお客様は喜ぶはず」という考えがその根底にある。そればかりか「ゆくゆくはジビエも使えたら面白いでしょうね。ただ、出すからには歴とした日本料理です」とも。そう、それが1+1の先に見える可能性なのだ。飛田氏が提案するペアリングも同様。ワインだけでなく、日本酒も交えて料理と合わさることでコース全体の完成度を高め合う。
店は2016年6月にオープンしたばかり。無限の可能性は膨らみ始めたばかりである。 -
日本橋 蕎ノ字
- 『れんこん』。この日は焼津産。そのまま口に運ぶと、力強い風味と歯ごたえのなかに広がる、ほのかな土の香りに素材の生命力を実感。「れんこん以外にも、さつまいもや玉取茸を手渡しすることもあります」という
- 『玉取茸』は静岡市岡部地区の生産者より。香り高く、肉厚で鮑のような食感。塩と蕎麦のかえしで食べる
- 『本日の地魚』には駿河湾のアジが登場。サッと揚げ、余熱で火入れ。中はレアに仕上げ、甘さを引き立てた
- 日本酒は故郷の大村屋酒造の銘柄のみ。地元の杜氏が島田の米と水だけで醸す『重兵衛』は珍しい銘柄
- 無垢の檜のカウンターからなる店内。伝説の天ぷら職人【みかわ是山居】の早乙女氏直筆の書が飾られる
郷土愛あふれる天ぷらと蕎麦
日本橋に名店誕生の予感「天ぷら蕎麦の発祥の地で何ができるか」そんな思いを胸に、2016年10月30日に静岡県島田市から日本橋へ。この店の真髄は、店主・鈴木利幸氏の故郷を愛するアイデンティティにある。日本橋という江戸文化を継承する地にあって、鈴木氏が突き詰める天ぷらは、江戸前のそれとは一線を引く。魚も野菜も使うのは、基本、地元静岡産である。
たとえば、駿河湾の太刀魚なら、脂のしっかりのった東京湾のものとは異なり、身の締まりがよく脂も軽い。それを上品な天ぷらにするのだが、皮目だけをさっと炙った刺身とともに供して、その違いを楽しませるのだ。野菜も島田人参なら薄く切らずに低音でじっくりと揚げ、じわりと広がる甘さを強調する。レンコンに至っては揚げたてを紙に包んで手渡し。「天ぷらにも食べて欲しい瞬間があります。鮨屋のように、こういうやり方もありかなと」と“らしさ”を挟み込む。
そして、痛快なのは〆。普通なら天丼、天茶となるところをここでは栃木県益子産や鹿沼在来種を使った二八蕎麦を楽しませてくれる。
「実家が蕎麦屋で、天ぷらを揚げる祖父が好きだった。自分の原点はそこにあります。言うなれば、ここは蕎麦屋が始めた天ぷら屋です」
天ぷら食って、蕎麦で〆る。暖簾の謳い文句に偽りなし。日本橋に名店誕生の予感だ。 -
青華こばやし
- 店主の小林雄二氏は、18歳で器を集めはじめ、24歳のときにある人から「突き詰め方が甘い」といわれたのを機に、コレクションはさらに増やしていったという。料理にピンポイントで器を合わせる造詣の深さがすばらしい
- 『マナガツオ』。焼き魚は年間を通して7種のみ。耐火煉瓦の炉に炭をくべ、遠赤外線でじっくりと焼く
- 『セイコ蟹』。味わえるのは11月の漁の解禁から2ヶ月ほど。内子、外子、ほぐし身、蟹味噌を土佐酢で
- カウンターは6席用意されるが、予約を受け付けるのは1日に3組だけ。10名まで対応する個室もある
- 日本酒は約30種をストックし、そのうち4種をおすすめする。料理を邪魔せず、飲み疲れしない酒が多い
六本木から荒木町へ
名店が歩む次なるステージ「自分の店を出してゴールではない。そこがスタートであって、その先の可能性が見えない料理人や店には、絶対にお客さんはついてきません」
それが、2016年2月に六本木から移転してきた理由である。それを物語るように店主・小林雄二氏が自らの哲学を突き詰めるかのようにこだわってきたものがある。そのひとつが器だ。店名の由来ともなった須田青華をはじめ川瀬竹春など、料理人を志した18歳の頃からのコレクションには小林さんの矜恃が宿っているといえる。
荒木町に移転し、カウンターは80センチほどとあえて奥行きも持たせたのも、実はその器を生かすためだという。カウンターの奥行きがあるため、料理人から料理を差し出すと折敷が届かない。だから、料理はその手前に置く。すると、ゲストは自ずと器を手に取ることに。「そうすることで自然と器にも意識がいき、器を愛でていただける」というのだ。
そして、料理にも小林さんの美学は見て取れる。「本当に美味しいものは限られている」と、食材は産地にこだわらず、旬に焦点をあてた選りすぐりの魚や野菜を使う。それらに極力手を加えず、丁寧に出汁を引き、その持ち味を引き出していくのである。シンプルに研ぎ澄まされた料理と美しき器。そして長年のカウンター仕事がものをいう闊達なもてなし。六本木から移転してきた理由をゲストは目の当たりにすることだろう。 -
虎白
- 小泉氏の尽きることのないアイデアの源泉は、とにかく多くの料理に触れること。日本料理はもちろん、さまざまなジャンルの店を食べ歩いて、ヒントを探す。そこから無数に試作を繰り返し、ようやくひとつの料理が完成するのだ
- 『甘鯛の松笠焼』。松ぼっくりに見立てる伝統的な日本料理の技法・松笠焼き。トリュフの香りを添えた
- ギャラリースペースのような上質で静謐、けれども温かみのある空間。カウンターのほかテーブル席も
- 冬の主役のひとつ『香箱』は、例年以上に質が良いとか。他に松葉ガニ、甘鯛など錚々たる逸品が揃う
- 『トラフグ白子の炭焼き』。香ばしく焼き上げて甘みを引き出す。下には蒸した餅米と柚子の香りの銀餡
最年少三ツ星料理人が挑む
新たな日本料理の境地今年度、昨年に続き見事ミシュランガイドの三ツ星を獲得し、名実ともに現代の日本料理界を代表する存在となった【虎白】。その持ち味は、日本料理の伝統を踏襲しつつ、しかし既存の枠を軽々と飛び越える独創的な料理にある。「新たな発見があるもの。ここでしか楽しめないもの」現在の国内最年少の三ツ星料理人たる小泉功二氏は、気負いもなくそう語った。
たとえばコースの一皿目に牛肉やトリュフの料理が登場することがある。あるいは揚げ物が序盤に供されることもある。どちらも会席として異例だが、無論、すべては計算の上。味の緩急から、ゲストの空腹具合による油の感じ方まで、あらゆる点を考慮して組み立てるのだ。調味料の使い方や、食材の組み合わせも然り。確かな技術の礎があり、その上でさらなる変化を模索する。ゆえに芯の通った旨さがありながら、未知なる驚きも同時に体験できるのだ。
料理はおまかせコース一本のみ。同じ献立を繰り返すことはほとんどないため、何度足を運んでも、驚きは尽きない。ゲストはただ席に付き、小泉氏の世界観が凝縮されるコースを楽しむだけでいい。それだけで、お腹も心も存分に満たされる。