道南の美食エリア。函館の今! | ヒトサラ
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レストランバスク
- およそ40年以上前から本物のバスク料理の在り方を探求し続けてきた深谷シェフ。毎年春と秋に開催される函館の恒例イベント「バル街」も発案するなど、スペインの食文化の普及に尽力している
- 『メネストラ』は野菜の煮込み料理。生ハムのダシがきいたスープに溶け合う素材の甘みがしみじみと旨い
- 『ソイのグリエ レモンバターソース』。プリッと弾けるソイの身に、濃厚で酸のきいたソースがよく合う
- 店内の雰囲気もバスクのレストランをイメージ。現地で買い付けた調度品がさりげなく並ぶ
- 自家製の生ハムは塩漬けにしてから1年2ヶ月~2年半ほど熟成。地元の黒豚を使うなど肉にもこだわる
本物を追求し続け35年
函館に根付くバスクの食文化「『嘘の料理だけは絶対に作るなよ!』。それが帰国する際にかけられた言葉でしたね」
そう言うと、シェフの深谷宏治氏は遠くを見つめた。
深谷宏治氏といえば、日本におけるバスク料理の第一人者である。単身海を渡り、スペインのサンセバスチャンで修業したのは今から40年ほど前。バスク料理の巨匠・ルイス・イリサール氏に師事し、日本に本場の味を持ち込んだ。冒頭の言葉は、ルイス氏が師として弟子へ送った最後の教えだった。
以来、深谷氏はその言葉を胸に“本物”だけを追求してきた。【バスク】のオープン当時、自らが納得できる食材がないと、生ハムやアンチョビを手作りし、野菜もできる限りを自家栽培。今となっては珍しくないが、深谷氏は35年以上前からそうして自らの哲学を貫いてきたのだ。
その深谷氏が推すひと皿が『メネストラ』という野菜の煮込み料理。小イカやメルルーサ(鱈)を使った名物に隠れがちだが、生ハムのダシが染み渡るスープに、滋味溢れる野菜の甘みが重なり合った美味である。
「野菜というと冷たい料理のイメージですが、実はバスクでは同じくらい温かい野菜料理も食べられるんです」
深谷氏が求めるのは単なる美味しさだけでない。本当に伝えようとしているのは、偽りのないバスクの食文化そのものなのである。 -
鮨処 木はら
- 「湯の川温泉という観光客も多く訪れる場所にあるので、他では味わえない函館らしさを感じてほしい」と話す店主の木原氏。江戸前鮨を信条としながらも、生まれ育った函館という街を常に意識した鮨を握る
- 『海峡鮪大トロ』。松前や戸井などで揚がった津軽海峡産のマグロ。口の温度で溶ける脂と赤身の旨みが秀逸
- 『北海バフンウニ』。店主の実家のある南茅部産の昆布と一番出汁を合わせた塩をかけて味わっても美味
- 店内は何度かの改装を経て現在の形に。メインカウンターには青森ヒバの一枚板が使われる贅沢なつくり
- ネタは自身の出身地である南茅部の漁港やえりも漁協から仕入れるほか、地元の漁師から直接買い付けることも
地場のネタで表現する
函館流の江戸前鮨函館の奥座敷、湯の川温泉の中心地。店があるのは津軽海峡を望む海べりという絶好のロケーションだ。快晴の昼間には津軽半島が眺められ、スルメイカ漁の時期になると海上には漁火が浮かぶ。そんな見事な景色を楽しめる店だではあるが、一度鮨が握られれば、誰もが目の前のカウンターを注視することとなる。
ここ【木はら】は、函館きっての鮨の名店だ。もちろん、ネタの主役となるのは、函館近海の魚介類。海峡マグロにウニ、スルメイカ、蝦夷アナゴ、ボタンエビ…。ただし、「東京と同じように江戸前の鮨を握っても面白くない」と店主の木原茂信氏は、その仕事にこの店の“らしさ”を見いだしてきた。例えば、江戸前鮨の花形であるコハダ。酢洗いしてから軽く昆布締めにするのは、「実家が昆布漁師だから」という理由から。函館名産のイカも、昔は函館で取れなかったショウガやワサビなどのかわりに薬味として使われた辛み大根をのせて供する。そんな具合に、正統派の江戸前鮨の合間に変化を差し込むことで、“木はら流”を体現しているのである。
「今も年に15回ほどは東京に通って、鮨屋巡りをするんです。東京にはやはり刺激がたくさんありますから」と笑う木原氏。その飽くなき探求心に触れた時、誰もがここ函館で江戸前鮨を味わう意味を知ることになる。 -
四季 粋花亭
- 魚は、函館市の東にある南茅部の港で揚がった地物が中心。「シマゾイ、アブラコ(アイナメ)、スズキ、サクラマス、ツブ貝、イワシなど本当に何でも揚がるんです」と店主もその豊かな漁場に惚れ込む
- その日の魚5~6点が盛られた『お造り』。この日はサクラマスの昆布締め、ホウボウ、ボタンエビなどが登場
- 『春野菜、ホッキ貝、タコの梅肉和え』。野菜を別々の吸い地で炊いた。野菜の旨みに梅肉が寄り添う
- 日本酒は種類こそ多くないが厳選された銘柄が並ぶ。『いづみ橋』『石鎚』『鯉川』などは店主のお気に入り
- 店はカウンターが3席と小上がりがあるだけの小ぢんまりとしたつくり。BGMにはジャズが流れる
食材への郷土愛が形となった
滋味溢れるおまかせ料理五稜郭近くにありながら、店は繁華街から離れた住宅街にポツンと佇んでいる。店内にはしっぽりとジャズが流れ、なぜか半分だけ椅子が取っ払われたL字のカウンター。店主の岩田健一郎さんに聞けば、「調理中に話しかけられると気が散るので、どかしてしまいました」と真顔で答える。それだけでここが少し変わった店だということは容易に想像がつくだろう。ただ、ここで味わえる料理は道外から訪れる人々をも魅了する。
「大切なのはまず季節感。冬になすびは使わないし、夏に大根を使うこともない。あとは、手をかけすぎないことくらいかな」
それは紛れもない、食材に対する郷土愛から出てくる言葉だ。魚介類は当然函館を中心とした地物のみ。野菜も夏は無農薬栽培の地場産で、牛肉には北斗市の生産者がつくる黒毛和牛を使う。それらを仕込みにたっぷりと時間をかけ、日本料理の伝統を大切にしながら調理していく。単品料理を用意せず、2種類のおまかせのみというメニュー構成も、最高の食材を最良の料理で味わってもらうためのこだわりなのだ。
合わせる酒は15種ほど。米という素材の旨みが際立ち、つくり手の情熱のこもった酒は、店主の想いと料理にもしっかりと呼応する。函館の夜をじっくりと楽しむなら、やはりこんな店で乾杯するに限る。 -
うに むらかみ 函館本店
- 『無添加生うに丼』は、まずウニをそのままで味わったところで、自家製の出汁醤油をかけて食べるのがおすすめ。ウニの柔らかさを引き立てるべく、ご飯は北海道産米を使い、わずかに芯が残るように炊きあげた
- ウニは函館近海産がメイン。11月~5月にかけては太平洋側、6月~9月にかけては日本海側のものを使う
- 『自家製うに屋のウニグラタン』。ウニを練り込んだホワイトソースを贅沢に使った人気の一品料理
- 店は、函館駅からもほど近い「函館朝市」にある。休日の昼時になれば軒先に行列ができることも珍しくない
- テーブル席と座敷からなる店は、和の趣がある落ち着いた雰囲気。連休中の昼の時間帯を除けば予約も可能だ
口の中が幸せで満たされる
感動的な無添加生ウニの旨さ日本料理店や鮨店などで、よく板の上に綺麗に並んだウニを見かけることがあるだろう。実は、それらは時間が経つと溶けて形が崩れてしまうウニに、ミョウバンという凝固剤を添加したもの。ミョウバンはウニの見栄えがよくなる反面、素材本来の甘さや風味を損ねてしまうというデメリットがある。
しかし、この店の「うに丼」は何と美しいことか。ご飯の上にびっしりと敷き詰められているウニはまるでオレンジの花のごとし。粒ごとの色味や大きさにも差が出ぬよう選ばれており、その美しさはより際立つ。しかも、それらすべてが、ミョウバンはもとより塩水で保存すらしていない正真正銘の生ウニなのである。その秘密を若女将の村上朋子さんはこう教えてくれる。
「ここは、私の実家である生ウニ加工会社が『本物のウニの味を知ってほしい』と始めた店なんです。鮮度にこだわるのはもちろん、工場では殻割、剥き、選別などを職人の手作業によって行っています」
まずは何もつけずに生ウニを味わってほしい。まったりとした甘みと濃密な旨み。そして、豊かな磯香が口中を駆け巡り、口福で満たされていくのを実感するはずだ。無論、白米との相性はこの上なし。決して大げさではない。この生ウニの丼一杯のために函館に来てよかった、そう思える逸品である。 -
活魚料理 いか清 本店
- 1月~5月頃までメニューに並ぶ『活ヤリいか』。歯切れのよりコリコリとした食感が特徴で甘さが際立つ。一方で、6月からは『活真いか』の季節に。鮮度が良くなければ食べられない肝もたっぷりと味わえる
- 『いか清フワフワ揚』。エビ、ホタテ、野菜などを練り込んだイカのすり身を素揚げに。特製天つゆでどうぞ
- 北海道の食材として近年注目を集めるのが噴火湾産の天然トラフグ。5月上旬~9月までメニューに並ぶ
- 店内はカウンター席も用意されるが掘りごたつのテーブル席がメイン。いずれも2名から個室として利用できる
- 板場のすぐ脇にはイカが放たれた水槽がある。注文が入り次第、網ですくってすぐさま捌かれていく
弾ける食感と甘さが新鮮な証
名産地の朝採れの活イカ水槽から揚げられたイカが、まな板の上であっという間に捌かれていく。注文からわずか5分たらず。ゲソをクネクネと動かしながら運ばれてきたイカは、まるで心太のように透き通り美しい。何もつけずにそのままひと切れ。すると、歯切れのよいコリコリとした食感のなかにえもいわれぬ甘みが広がった。
函館といえば、言わずと知れたイカの産地である。函館の前浜では、1月から5月にかけてヤリイカが揚がり、6月になればスルメイカが解禁。その漁獲高は、いうまでもなく日本でも指折りだ。
「小さい頃は、朝から家庭の食卓にイカ刺しが並びましたからね。それほどイカは函館市民にとっては切ってもきれないものなんです」と話すのは店長の室田秀文さん。そして、「イカはやはり鮮度が命」と続けた。
だから、ここでは店内に水槽があるものの、刺身に使うのはその日に揚がったイカのみ。1日経って弱ったイカを刺身として出すことはない。道理で旨い訳である。
そんな函館の名物ではあるが、イカ刺しだけでさすがに腹を満たすことはできない。が、心配は無用。メニューにはイカを使った一品料理が豊富に揃うだけでなく、これからの季節は噴火湾産のフグも登場する。「北海道でフグ?」と思うなかれ。実は、こちらもまたイカ料理に劣らぬ道南の隠れ名物なのである。
※このページのデータは、2016年6月上旬取材時のものです。メニュー、営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。