巨匠たちのスペシャリテ | ヒトサラ
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ヌキテパ
- 田辺シェフが生み出す料理は一見型破りに思えるが、そこに秘めた想いは「いかにいい素材を使い、魅力を引き出すか」と実に明快だ。素材にこだわり続けたシェフにとって、“土の料理”は何も特別なことではない
- 『蛤の炭火焼き』。鼻孔をくすぐる豊かな磯香と溢れ出す旨みの凝縮感は、まるで素材が迫り来るよう
- 『白菜とズワイ蟹の土のドレッシング 土の泡添え』。土と野菜、海の恵みが巡り会ったひと皿
- ドイツ大使の邸宅として使われていたという建物には開放的なテラスも。自然を感じながら料理を楽しむのもいい
- 土の料理の素となるソース。約200℃のオーブンで焼いた鹿沼土を水と合わせ、何度も裏ごしして仕込まれる
ヌキテパ
03-3442-2382 住所:東京都品川区東五反田3-15-19
営業:12:00~15:00(L.O.13:30)
/18:00~23:00(L.O.21:00)
休日:月曜、火曜のランチ お店の詳細情報を見る素材を探求した末に辿り着いた
命を味わう“土の料理”土の付いたカブを手のひらで軽く叩くと、そのままがぶり。「洗う必要なんてないんだよ」。田辺年男シェフはそう言うと、ニッコリと笑ってみせた。それがパフォーマンスなんかではないことは容易に想像が付く。なぜなら、ここは“土の料理”で世界のキュイジーヌシーンの度肝を抜いてきたレストランなのだから。
【ヌキテパ】の代名詞“土の料理”。そのインパクトから異端というイメージだけが先行しがちだが、田辺シェフに一切の気負いはない。むしろその根底にあるのは、料理人としての極めてシンプルな想いだ。
土を取り入れるきっかけとなったのは、今から10年以上前、埼玉で無農薬野菜の収穫をしていた時のことだ。「土がついたままで食べられるんだけどな」。そう農家の方が発した何気ない一言に田辺シェフは閃いた。「豊かな作物を実らせるのは健全な土壌。ならばそれも素材の一部である」と。
スープやドレッシング、ソースに土を取り入れ、サラダには土のついた野菜をそのままに。決して奇をてらったわけではない。それは田辺シェフが作る料理すべてに当てはまる。定番の『蛤の炭火焼き』然り、スペシャリテの『磯魚のスープ ニース風』然り。そこにあるのは、「真っ当な素材を使い、それを活かす」という田辺シェフの信念なのだ。 -
北島亭
- 18歳で料理人を志し、フランスでの研鑽はもちろん、探究心からパティシエの修業経験まであるオーナーシェフ、北島素幸氏。同店のオープンは1990年。以来、実直に「美味しいもの」を追い求める氏の姿勢に惚れ込むファンも多い
- 『北海道産 生ウニのコンソメゼリー寄せ カリフラワーのクリーム添え』。今やほとんどの人がオーダーする逸品
- 『オーストラリア産 仔羊の塩包蒸し焼き』。これも当初からあるスペシャリテ。驚くほどしっとりした焼き上がり
- 仔羊の旨さを引き出すために試行錯誤の結果、誕生した塩包蒸し焼きの“包み”は小麦粉と卵白などで形成
- 正統派のフレンチレストランゆえ、ワインリストは充実。フランス産を中心に、常時100本以上を用意している
フランス料理という文化の魅力を
伝えようとする、実直な熱意「これからも本質を極めたい」。そう語るシェフの北島素幸氏は求道者だ。四谷に、『北島亭』を開いて24年を経た今もなお、「昨日よりも美味しい料理」を目指す情熱で厨房に立っている。それはフランス料理という文化に惚れ込んだ男の生き様。20代後半で渡仏し、多くの名店で修業する中で得た感激が今に続いている。
「素敵なオーナーにたくさん出逢えたことに感謝しています。彼らはただ、『いいものを提供したい』という一途な気持ちだけで毎日、レストランを営んでいた」
当たり前のことを当たり前に取り組む。だから、築地に出向き、自身の目で鮮魚を見て仕入れるのは毎朝の日課。肉や野菜も信頼する業者から「フィットする」食材を選別して仕入れている。今、供している料理も、それがベストか自身に常に問い続けている。すべては「食べて美味しい」と素直にゲストが思える料理のため。
スペシャリテは、北島亭の開店当初からある、『生ウニのコンソメゼリー寄せ』。今は味のアクセントに、カリフラワーのクリームを添えているが、これも「ホワイトアスパラガスなど、いろいろ試して」辿り着いた結果。身体に沁みるようなコンソメの滋味と、ウニのフレッシュな磯の香りとが渾然一体となって口一杯に広がる美味しさに陶然となる。フランス料理の王道を邁進する巨匠だからこそ醸せる美味がここにある。 -
マルディグラ
- いかに素材の滋味を引き出すか。和知シェフが行き着いたのはシンプルイズベスト。ソースや調味料などは必要最低限。引き算の料理で、素材の持味を存分に楽しませてくれる
- 『下仁田ネギのロースト』。調理は焼くだけ。ネギがこんなにも甘く、深みがある味に、驚くはずだ
- イベリコ豚で作った自家製ソーセージを豪快に味わえる『イベリコホットドッグ』。ジューシー極まりない
- 常に新たな発想に意欲的な和知シェフ。海外旅行などでの経験をヒントに、あっと驚くスペシャリテを生む
- メイン食材として、使っている短角牛のリブロース。ナチュラルな霜降りが旨みの証拠だ
マルディグラ
予約専用番号:050-5263-0474 お問い合わせ専用番号:03-5568-0222 住所:東京都中央区銀座8-6-19 野田屋ビルB1F
営業:18:00~L.O.23:00(土曜・祝日はL.O.22:00)
休日:日曜 お店の詳細情報を見る肉、肉、野菜、そして肉…
シンプルな骨太フレンチへ食の激戦区・銀座で13年。骨太な肉料理をメインに、常に美食の最前線を走り、多くのグルマンを魅了し続けるのが【マルディグラ】の和知徹シェフ。フランスのエスプリを感じさせる豪快な料理と多彩なワイン、そこに和知流のもてなしが加わった空間は、なぜか心地がよく、店が支持されるのが自然と納得できる。では、和知シェフが目指す料理とは何かと問えば、シェフ曰く「素材の良さを引き出して、極力シンプルに」と笑う。
フランスでの経験をベースに、帰国後、短角牛の旨さに目覚めたのは20年以上も前。霜降り肉全盛の時代から、赤身肉の旨さを実直に伝えてきた。時に産地へ出向き、さらには生産者や飼料にまで目を配り、独自の目利きで肉を厳選してきたという。そして現在、こだわりの肉は、牛が尾崎牛と短角牛の2種、豚も今帰仁村のアグーと奄美大島の黒豚の2種類。ほかにも鶏、猪、鹿など、それぞれ産地直送の美味なる肉が、和知シェフの元へ届けられ、今か今かとスペシャルな肉料理へと昇華されるのを待っているのだ。
海外各地を回るたび、その地のエッセンスを加え、変幻自在に進化してきた和知流肉料理。他にはない、肉のスペシャリテが食べたければ、やはりここは外せない。 -
趙楊
- 食材の見極め、火入れのタイミング、香辛料のバランス。レシピで示すことができない美味の根源を成すのは、経験に培われた料理人の勘。中国料理の最前線で腕を磨いた趙楊氏にしか出すことができない味が、ここで堪能できる
- まろやかな赤と刺激的な青、2色の山椒を使って仕立てる『麻婆豆腐』は、辛さの奥に深い旨みが潜む
- ミルクでまろやかさを加えた『トマト玉子炒め』。定番料理にも、趙楊氏ならではの技と個性が光っている
- 『麻婆干烏賊』。干したスルメイカを3日間かけて柔らかく戻し、山椒や豆板醤で炒めた四川の家庭料理
- 紹興酒はするりと飲める5年物から年代物までが揃う。趙楊氏の料理にはやはり中国酒が似合う
中国政府要人や国賓を魅了した
世界最高峰の四川料理銀座6丁目にあった【趙楊】が新橋寄りに移転したのは2014年10月のこと。ガラス張りの店は以前よりも開放的な雰囲気になったが、変わったのはそれだけ。数多くの食通を魅了しためくるめく四川料理の数々、そしてオーナーシェフである趙楊氏の技は健在だ。
趙楊氏は、中国四川省で政府要人や外国の賓客をもてなす迎賓館で料理長を勤めた人物。本場が認めた最高の技術と厳選した食材・香辛料の相乗効果で、唯一無二の味となってゲストを驚かせる。たとえば定番の回鍋肉。火を通しても柔らかさを失わない豚肉、食感と甘みを両立するキャベツ、黒味噌の濃厚な旨み、そして豆板醤の芳醇な香り。すべての素材を知っているのに、その調理と味のバランスで、まったく未知の味に仕上げるのだ。2種の山椒を使い分ける麻婆豆腐も然り、まろやかな甘みを秘めたトマト玉子炒めも然り。正統派でありながら鮮烈な印象を残す味は、まさに名人の腕の賜物といったところだろう。
もちろん国家の威信を背負って料理と向き合ってきた趙楊氏のこと、定番料理だけが魅力ではない。門外不出といわれる料理、目を見張るほどの超高級食材。ときにはそんな美味にも巡りあうことができるだろう。なにしろ4000年の歴史を受け継ぐ証人なのだ。その秘める実力は、筆舌に尽くしがたい。 -
てんぷら 近藤
- 野菜を折ったときの音や油の爆ぜる音を聞いて揚げ時間を判断し、食材が最も輝く一瞬を見極めるという近藤文夫氏。その無駄のない所作や厨房に立つ堂々たる姿は、まるで一幕の伝統芸能を見ているようでさえある
- 『人参』。細切りを油全体に広げ、頃合いを見計らって一気にかき揚げ状にまとめ上げる近藤氏ならではの逸品
- 店主自らが仕入れた沖縄の花『クワンソウ』の天ぷら。肉厚で甘みのある花弁は、香ばしい天ぷらと見事な相性をみせる
- 揚げ油は太白と焙煎、2種の胡麻油をブレンド。高温と低温の油を使い分けることで、香ばしく仕上げている
- 「天ぷらは職人がゲストを招く料理」との信念から、昼夜を問わずに店主自らがカウンターに立って客を迎える
厳選食材の水分と旨みを
内部に封じ込める名人の技「天ぷらは、蒸し料理なんです」。日本一との呼び声も高い【てんぷら 近藤】の店主・近藤文夫さんは、こともなげにそう語る。素材の水分と甘みをしっかりと中に閉じ込める。衣や揚げ油は、その手伝いをしているだけ。つまり、素材の旨みを熱によって内部に凝縮する蒸し料理、というわけだ。“天ぷら”の名を世界に知らしめた名人の言葉は、その料理の本質的な魅力を端的に言い表している。
無論、型破りな哲学は実践する技術あってのこと。たとえばアスパラの揚げたてに包丁を入れると、断面から水分が玉状になって溢れだす。切り株状のサツマイモは、串を刺すこともなく一瞬の食べごろを見極める。鍋の中で花火のように広がった細切り人参は、まばたきする間に立体的なかき揚げに変わる。目の前で繰り広げられる数々の名人芸、これはまるで魔法だ。だが驚いてばかりもいられない。揚げたての天ぷら、食べてみれば更なる感動が待っているのだから。
定番の江戸前魚介から、四季折々の野菜までコース展開も飽きさせない。素材の追求もまた氏の重大なテーマなのだ。「ただ揚げているだけじゃ、寿司屋に置いていかれちゃうでしょ」。そう穏やかに笑う巨匠の手で、天ぷらという料理は、まだまだ高みへと登っていく。
※このページのデータは、2014年11月上旬取材時のものです。メニュー、営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。