至福の逸品~dish stories~ vol.13

由比の春風を感じる「桜えびのかき揚げ天ぷらそば」~そばと小皿料理 若松~

さくら色の甲殻を煌めかせ、「海の妖精」とも言われる桜えび。今年もいよいよ春漁が解禁となり、旬を迎える。4cmほどの小さな身に詰まっているのは、上品な甘さと、ぷりぷりの食感。生の桜えびは、殻が軟らかい春ものが最も美味いのだ。 今回は、国内で水揚げされる桜えびの約7割を占める、静岡県由比産の産地直送桜えびを使用した、「桜えびのかき揚げ天ぷらそば」をご紹介。

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撮影/玉川 博之

由比の漁師に愛される、さくら色の海の妖精「桜えび」

日本で桜えび漁が始まったのは、1894年頃のことだ。国内で水揚げされる桜えびの約7割を担う由比港の漁師が、偶然深海にいた桜えびを捕獲したことから始まったとされている。当初は1年を通して行っていた漁も、現在では春漁(3月下旬~6月上旬)と秋漁(10月下旬~12月下旬)の2回のみ。「孫の代まで桜えびを受け継ぎたい」という漁師たちの思いから、産卵期である夏と、1~2月の冬の時期を禁漁と定めたそうだ。漁師が自ら禁漁をするというのは全国的にも珍しく、桜えびを後世に伝えたいという漁師たちの熱い思いが感じられる。

そんな、漁師たちに愛される桜えびは、獲れたての生の状態を現地で急速冷凍し、全国へ届けられている。今回ご紹介する【そばと小皿料理 若松】でも、静岡県由比港で急速冷凍された新鮮な桜えびを、産地直送で仕入れているのだ。

「産地直送の桜えびは、届いてすぐにお店にあるマイナス40°の冷凍庫で保管します。もちろん、鮮度が落ちることはありません」と話してくれたのは、店主の永尾茂行氏。

【そばと小皿料理 若松】では、桜えびをはじめ生鮮食材を多く取り扱っているため、素材本来の味を新鮮な状態で伝えようと、急速冷凍が可能な冷凍庫を用意したそうだ。

マイナス40°で素材の旨みを逃がすことなく保存された桜えびは、1日に使用する量だけを取り出し、前日の夜に冷蔵庫に移す。桜えびは、余分な水分を吸わないようにと給水シートの上にのせ、10時間程かけて解凍するのだ。

調理を始める前から素材の扱いにこだわり、由比産桜えびの独特の香りと、上品な甘さをそのまま届けようと、万全の態勢を備えている。

世界的にも希少とされる「桜えび」。桜えびを干す光景は、桜の花を一面に敷き詰めたように美しく、駿河湾の春の風物詩とされている/かき揚げに使用するのは、桜えびと三つ葉のみ。素材の味をそのまま楽しんでほしいとあえてシンプルに仕上げている

桜えびならではの美味を、存分に味わい尽くす

「桜えびは、薄い衣をつけて短時間で揚げることが大切です。そうすることで、衣もサクサクで、えびの身も縮まらず、えび1匹1匹の食感がきちんと味わえるんですよ」。

桜えびとみつばに衣を薄くまぶし、2分もしないうちにかき揚げは出来上がる。最初は油の中に素材1つ1つを散らし入れ、またたくまにきれいな円形にまとめあげる。その技は、50秒ほどの出来事で、そこから約20秒かけてしっかり油を切っていくのだ。油の面にかき揚げの1点だけをつけておき、そこから油がすーっと抜けていくのをじっくり待つ。この油切れの良さは、永尾氏の技だけではなく、使用している油にも秘訣があるそうだ。

使用しているのは、「太白ごま油」。焙煎する前の胡麻の中心部分を絞った、ごま油独特の香りがほとんどないサラっとした油である。この「太白ごま油」で揚げることで、天ぷら自体がもたれにくく、カラっとあがるという。

揚げあがるまでの1分半ほどの出来事はあっと言う間で、衣が薄く、えび1匹1匹の形が鮮明にわかる美しいかき揚げからは、桜エビのほんのり甘い香りと、その香りを邪魔しない上品な油の香りを楽しむことができた。

「かき揚げは、いきなりお蕎麦の上にのせるのではなく、まずは藻塩をかけて召し上がってください。マイルドな塩気で、天ぷらにはオールマイティーに合うんですよ」。

永尾氏が絶賛する淡路島の藻塩は、素材の味を邪魔しない程よい塩気で、桜えびの甘さをより引き立ててくれる。塩で桜えびの旨みを存分に堪能した後に、かき揚げをそばの中に入れるのが、おすすめの食し方だ。

桜エビの美味しい出汁が関東風のつゆに染み出し、香りと風味をさらに良くする。かき揚げの油もあわさることで深みも加わり、一つで二度おいしい桜えびを味わうことができるのだ。

かき揚げにすることで生まれる、香ばしい独特の香り。そして、サクサクの衣の中で、ふんわりとした身からジュワーっと広がる旨み。海の妖精「桜えび」は、一度口に運ぶと誰もが心を奪われる魅力を持っている。

永尾氏の揚げたかき揚げは、驚くほど美しい円形をしている。衣が薄いことから、素材と素材の隙間が大きく軽い仕上がりのかき揚げだ/8年前から、若松の人気メニューとして年齢問わず人気の「桜えびのかき揚げ天ぷらそば」

常連客が勧める逸品 ~湯葉サラダ~

湯葉サラダ 豆乳ドレッシング掛け 930円

湯葉サラダ 豆乳ドレッシング掛け 930円
ドーム状に盛られた湯葉の下には、湯葉を作る際にできたおから、そばの実にそばのスプラウト、くるみ、ハーブとそば屋ならではの具材が隠れている。 豆乳ベースの酸味のあるドレッシングにはお好みでわさびのアクセントを。

桜えびのかき揚げを引き立てる旨い酒 ~甘めの日本酒~

<左>加賀鳶 山廃純米辛口 <右>写楽 純米吟醸 グラス450円 一合780円

<左>加賀鳶 山廃純米辛口
<右>写楽 純米吟醸
グラス450円 一合780円

福島の写楽は、お米の甘さが桜えびの甘さを引き立てる。石川の加賀鳶は、ほんのり甘く酸味が感じられ、天ぷら全般に合うという。桜模様のとっくりと桜えびのかき揚げで存分に春を感じよう。

このページで紹介したお店

【営業時間】
ランチ 11:30~15:30
 
ディナー 17:00~22:00
【定休日】
木曜日
【TEL】
043-247-168
※「生桜えびのかき揚げ天ぷらそば」は通年ご用意しております

編集後記

創業35年の【そばと小皿料理 若松】。街のどこにでもある出前メインの日本蕎麦屋だったお店を、現在の店主・永尾氏が「一番おいしい状態の料理を食べてほしい」という思いからリニューアルしたそうだ。リニューアル後は、蕎麦だけでなく小皿料理とお酒にもこだわり、新メニューも加えて今もなお進化している。そんな【そばと小皿料理 若松】で、今年の3月から新たに加わるのが「桜天汁」だ。「桜天汁」とは、つけ麺タイプのかき揚げそばで、ばらばらのまま揚げた桜えびのかき揚げを濃いめの暖かいつゆに入れ、冷たいお蕎麦とともにいただく一品。細めの冷たい蕎麦と桜えびの出汁が効いたつゆが絡み、通常のかき揚げ蕎麦とは一味違った味わいを楽しめるそうだ。 新たな挑戦を忘れない店主の永尾氏は、暖かな風貌の中に、真摯な思いをのぞかせる。その横にたつのは、細かな気配りと優しい笑顔で穏やかな空間を作り出してくれる女将さんだ。2人が出迎えてくれる【そばと小皿料理 若松】は、また訪れようと思わせる居心地の良さが魅力だ。 

編集担当:A.S.

そばと小皿料理 若松

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