『肉極道』
『肉極道』(にくごくどう)は、祖父が営んでいた肉料理専門食堂を受け継いだ孫娘・まなびと、その食堂に訪れた謎の客・肉極道が織りなすコメディマンガ。
まなびは料理の専門学校に通っていましたが、料理の腕はいまいちでお店は閑古鳥が鳴く状態でした。そんなまなびと店の惨状を見かねた肉極道が、「しょうが焼き」「ハンバーグ」「からあげ」「牛丼」「トンカツ」といった肉料理の数々を、まなびにスパルタ教育していくという物語です。
ステーキは肉を“ただ焼くだけ”……じゃないのです!
本作の記念すべき第1話めのテーマがズバリ、ステーキ!
客として訪れ、“本日のランチ”である「ステーキ定食」を注文した肉極道は、しばらくは黙々とステーキを食べていたのですが、沈黙を破り、まなびにこう語り掛けます。
「焼く前に常温に戻したんだろうな?」
まなびが肉を常温に戻してなかったと知ると、
「肉の旨味を全部逃してるじゃねぇかバカヤロウ!!」
と激昂。ズカズカと厨房に入っていったかと思うと、いきなりまなびにステーキの焼き方のレクチャーを始めるのです…!
「まずお前の肉は断面が良くない! 肉を切る時は繊維に対して直角に切る!!」
「そして約10分程置いて肉を常温に戻す!」
「中火で約10秒!! いいか ここからが本番だ!! 10秒経ったら裏返して――さらに10秒焼く!!」
「一旦 フライパンから外して休ませる!」
「大事なのは肉を休ませながら焼いていくということ 極力肉に負担をかけずに自然な火入れをする!」
などなど、コワモテな肉極道ですが、指導内容はその顔とは似つかわしくないほど繊細かつロジカル!
それでいて、肉極道はまなびが出したステーキは、ただ強火でジューーと焼いただけだろうと指摘しつつ、「そりゃあ肉を火傷させてるみてーなもんだぞ かわいそうだ…かわいそうだよ 肉がなぁ……」と、寂しそうな表情を見せるのです。そう、肉極道がまなびにいきなりスパルタ教育を始めたのは、肉に対しての大いなる敬意と深い愛情があったからなんですよね。
シンプルな料理ゆえに多くの知識やテクニックが必要
肉極道が焼いたステーキは、まなびがステーキ定食で出していた肉と同じものでしたが、まなびは食べた瞬間、「なにコレ!? うわっ… 美味しい!!!」と箸が止まらなくなってしまうほどの美味に仕上がっていました。
肉極道はアメリカの牧場で大切に育てられてきたであろうその牛を妄想しながら、「肉は手をかければかけるほど旨くなる!」、「こっちが愛情をかければかけた分だけ応えてくれるのさ」、そう言ってまなびに“気付き”を与えるのでした。
ステーキの調理工程は、極論で言えば“焼く”だけ。
とは言え、誰が焼いたって一緒……ではないということを、肉極道は伝えているわけです。
シンプルな料理ですが、シンプルゆえに奥が深い……深すぎる! それがステーキ!!
間違ってもただ焼くだけだと侮ってはいけないのは当然のこと。逆に言えばメインとなる工程が“焼く”ことのみだからこそ、肉の切り分け方、焼くまでの準備、焼く際の火加減、焼く時間などなど、繊細にこだわるポイントが盛りだくさん。その肉のポテンシャルを最大限に引き出すためには、多くの知識やテクニックが必要というわけですね。
一見、焼くだけなら誰でもできると思えてしまうのがステーキという料理ですが、作る人の腕次第で同じ肉でもおいしさは段違いになる、と。
このステーキ回を通じて肉極道は、肉をおいしく焼くための具体的なテクニック(技術論)だけではなく、肉にきちんと敬意と愛情を持って向き合っていくというスタンス(精神論)も教えてくれたのです。
肉極道のステーキに対するアプローチとメソッド、そして実際に料理するその工程を目にすると、ステーキというシンプルな料理を何段階も深く知ることができ、そして気付けばヨダレをゴクリとしていることでしょう。
今までステーキを食べるときはただがむしゃらに頬張っていた人も、ステーキの料理方法の造詣が深くなったことによりロジカルにも味わえるようになり、本能と理性、両軸でその美味な肉を堪能できるようになるかもしれませんね!