1. ヒトサラ

読みながらヨダレがたれちゃうほど!?「ステーキ」がおいしそうなマンガ3選

――ステーキ。厚く切った肉を香ばしく焼き上げる料理。贅沢ご褒美料理の代表格とも言えるステーキは、シンプルゆえに、奥が深い料理でもあります。
 そこで今回は、ステーキが登場するマンガを3つセレクト。
 ステーキに舌鼓を打つマンガの登場人物たちに気持ちを重ね合わせれば、ステーキという料理の魅力をより深く知れ、このコラムを読み終わった頃には、ステーキが食べられるお店に駆け出したくなっているはず…!?

『肉極道』

『肉極道』

作品データ/『肉極道』(1巻より抜粋)-原作:佐々木善章 作画:森尾正博 『週刊漫画TIMES』連載、全5巻 佐々木善章・森尾正博/芳文社

『肉極道』(にくごくどう)は、祖父が営んでいた肉料理専門食堂を受け継いだ孫娘・まなびと、その食堂に訪れた謎の客・肉極道が織りなすコメディマンガ。
 まなびは料理の専門学校に通っていましたが、料理の腕はいまいちでお店は閑古鳥が鳴く状態でした。そんなまなびと店の惨状を見かねた肉極道が、「しょうが焼き」「ハンバーグ」「からあげ」「牛丼」「トンカツ」といった肉料理の数々を、まなびにスパルタ教育していくという物語です。

ステーキは肉を“ただ焼くだけ”……じゃないのです!

『美味しんぼ』

 本作の記念すべき第1話めのテーマがズバリ、ステーキ!
 客として訪れ、“本日のランチ”である「ステーキ定食」を注文した肉極道は、しばらくは黙々とステーキを食べていたのですが、沈黙を破り、まなびにこう語り掛けます。
「焼く前に常温に戻したんだろうな?」
 まなびが肉を常温に戻してなかったと知ると、
「肉の旨味を全部逃してるじゃねぇかバカヤロウ!!」
 と激昂。ズカズカと厨房に入っていったかと思うと、いきなりまなびにステーキの焼き方のレクチャーを始めるのです…!
「まずお前の肉は断面が良くない! 肉を切る時は繊維に対して直角に切る!!」
「そして約10分程置いて肉を常温に戻す!」
「中火で約10秒!! いいか ここからが本番だ!! 10秒経ったら裏返して――さらに10秒焼く!!」
「一旦 フライパンから外して休ませる!」
「大事なのは肉を休ませながら焼いていくということ 極力肉に負担をかけずに自然な火入れをする!」
 などなど、コワモテな肉極道ですが、指導内容はその顔とは似つかわしくないほど繊細かつロジカル!
 それでいて、肉極道はまなびが出したステーキは、ただ強火でジューーと焼いただけだろうと指摘しつつ、「そりゃあ肉を火傷させてるみてーなもんだぞ かわいそうだ…かわいそうだよ 肉がなぁ……」と、寂しそうな表情を見せるのです。そう、肉極道がまなびにいきなりスパルタ教育を始めたのは、肉に対しての大いなる敬意と深い愛情があったからなんですよね。

シンプルな料理ゆえに多くの知識やテクニックが必要

『美味しんぼ』

 肉極道が焼いたステーキは、まなびがステーキ定食で出していた肉と同じものでしたが、まなびは食べた瞬間、「なにコレ!? うわっ… 美味しい!!!」と箸が止まらなくなってしまうほどの美味に仕上がっていました。
 肉極道はアメリカの牧場で大切に育てられてきたであろうその牛を妄想しながら、「肉は手をかければかけるほど旨くなる!」、「こっちが愛情をかければかけた分だけ応えてくれるのさ」、そう言ってまなびに“気付き”を与えるのでした。
 ステーキの調理工程は、極論で言えば“焼く”だけ。
 とは言え、誰が焼いたって一緒……ではないということを、肉極道は伝えているわけです。
 シンプルな料理ですが、シンプルゆえに奥が深い……深すぎる! それがステーキ!!
 間違ってもただ焼くだけだと侮ってはいけないのは当然のこと。逆に言えばメインとなる工程が“焼く”ことのみだからこそ、肉の切り分け方、焼くまでの準備、焼く際の火加減、焼く時間などなど、繊細にこだわるポイントが盛りだくさん。その肉のポテンシャルを最大限に引き出すためには、多くの知識やテクニックが必要というわけですね。
 一見、焼くだけなら誰でもできると思えてしまうのがステーキという料理ですが、作る人の腕次第で同じ肉でもおいしさは段違いになる、と。
 このステーキ回を通じて肉極道は、肉をおいしく焼くための具体的なテクニック(技術論)だけではなく、肉にきちんと敬意と愛情を持って向き合っていくというスタンス(精神論)も教えてくれたのです。
 肉極道のステーキに対するアプローチとメソッド、そして実際に料理するその工程を目にすると、ステーキというシンプルな料理を何段階も深く知ることができ、そして気付けばヨダレをゴクリとしていることでしょう。
 今までステーキを食べるときはただがむしゃらに頬張っていた人も、ステーキの料理方法の造詣が深くなったことによりロジカルにも味わえるようになり、本能と理性、両軸でその美味な肉を堪能できるようになるかもしれませんね!

『1ポンドの福音』

『1ポンドの福音』

作品データ/『1ポンドの福音』(2巻より抜粋)-作者:高橋留美子 『週刊ヤングサンデー』連載、全4巻 高橋留美子/小学館

 才能と運を併せ持つプロボクサー・畑中耕作の最大の弱点は、食いしん坊すぎて、すぐに食欲に負けてしまうこと…。試合前の減量がつきもののボクサーにとって、致命的な弱点と言えるわけですね。
 そんな耕作は恋するシスター・アンジェラに懺悔をしながら、対戦相手と食欲と戦っていくというコメディタッチのボクシングストーリーです。

ステーキを取り上げた店長が、主人公の対戦相手だった!

『1ポンドの福音』

 さかのぼること4年前、耕作のB級プロテスト。このテストのスパーリングで耕作の相手をしたのは、当時フライ級のホ-プだった松阪太郎でした。耕作はそのテストで松阪を1ラウンドKOし、華々しくプロデビューを飾っていたのです。
 そして現在。耕作より一つ下の級であるJフライ級で試合を申し込んできたのが、松阪でした。
 減量が苦手な耕作が、一つ下の階級に落とすのは至難の業。ちょうどステーキを食べようとしていた耕作に、ジムの会長が「減量開始」を言い渡すも、耕作はステーキに未練たらたら。そこにレストランの店長が現れ、「おさげいたします。」と耕作からステーキを取り上げ……。
 接客スマイルで人相も髪型も変わっていたため、そのとき耕作たちは気付かなかったものの、実はその店長は松阪。松阪はプロボクサーとして活動しつつ、ステーキレストランの店長としても働いていたのでした。そして、松阪は4年前の耕作とのスパーリング時、殴られた勢いでロープに口からダイブしてしまい、総入れ歯になった恨みを晴らそうとしていたのです。この試合は波乱必至!!

ステーキへの飢餓感を高めるのにうってつけのエピソード

『1ポンドの福音』

 そして、いよいよ試合開始。
 もともとセンスがあり、対耕作に向けて努力を惜しまなかった松阪が序盤から優勢。耕作は松阪に翻弄されながら、強烈なアッパーを喰らいダウンしてしまいます。
 そのとき、耕作はリングに倒れ込みながら、セコンドの会長に向かって、
「勝つ…から 特上…ステーキ…」
 そう言って、会長に勝利のあかつきには特上ステーキを奢ってくれと、おねだり。危機的状況下でもステーキに対して貪欲な耕作に、会長は一瞬ドン引きしながらも、「お、おおっ!! ステーキでもラーメンでもおごってやる!! 勝ったらなっっ!!」と約束すると、耕作は不気味な笑みを浮かべながら立ち上がるのです……。
 甦った耕作は、「特上ステーキ!!」と叫びながら、ステーキパワー炸裂のパンチ! 松阪をリングに沈めるのでした。
 後日。松阪が自ら申し出る形で、松阪のおごりで特上ステーキを食べることになった耕作。しかし、「畑中くん、私と一緒に減量しましょう。」と言う松阪が用意したのはちんまりの極小の極上ステーキでした。
 ――さて、このエピソードを読んでいると、無性にステーキ欲が掻き立てられることでしょう。
 なぜなら、耕作は減量開始時にステーキを取り上げられているし、勝利のご褒美で食べさせてもらった特上ステーキもほんのわずかのため、耕作に感情移入していればしているほど、ステーキへの飢餓感が増してゆくのです…!!
 目の前にステーキがありながらも取り上げられたり、特上ステーキで満腹になるつもりがちんまりとしか食べられなかったりと、ステーキ欲の“寸止め状態”が耕作(&読者)を襲うわけですね。ボクサーの減量苦に気持ちをシンクロさせるほど、ステーキを渇望する自分に気づくのではないでしょうか!?
 ですから、今日これからステーキを食べに行くぞと決めている日に、このエピソードを読むのが最高なのかもしれません。だってステーキの誘惑に次ぐ誘惑でステーキ欲を刺激されまくるわけですからね。メインディッシュであるステーキの“前菜”的に読むとうってつけということです。
 自身のステーキ欲をマンガで追い込みまくって、その抑圧された欲求を現実にステーキをもりもり食べることで一気に解放するという、カタルシスも味わえるわけですね。減量でステーキを思う存分食べられない耕作に代わって、みなさんがガッツリとステーキを食べてあげれば、耕作の無念もきっと報われる…………かも!?

『ダメな私に恋してください』

『バンビ〜ノ!SECONDO』

作品データ/『ダメな私に恋してください』(3巻より抜粋)-作者:中原アヤ 『YOU』連載、全10巻 中原アヤ/集英社

 勤めていた会社が倒産し、就活にも惨敗して収入ゼロになってしまったアラサー女子・柴田ミチコ。そんなとき、かつての会社の上司(主任)だった黒沢と再会。
 ドSで当たりの厳しい黒沢のことをかなり毛嫌いしていたがミチコですが、ひょんなことから、黒沢が現在マスターをしている喫茶店の2階に住み込みで働かせてもらうことになり――という大人のラブコメディが展開されるのが、この『ダメな私に恋してください』です。

ドSの元上司に惹かる“肉好きアラサー女子”が主人公

『バンビ〜ノ!SECONDO』

 黒沢の喫茶店でアルバイトとして住み込みで働きつつも、無事に再就職も決まり、ダブルワークに精を出すミチコ。黒沢もミチコと同じく喫茶店の2階に住んでいるため、二人は奇妙な同居生活を送ります。
 ミチコはときおり見せてくれる黒沢のやさしい一面にキュンキュンし、あんなにも大嫌いだった黒沢のことを好きになっていきますが、再就職先の年下かわいい系男子からもデートに誘われるなどして、恋に揺れていました。
 さて、そんなミチコと黒沢が、黒沢が焼いたステーキに舌鼓を打つシーンがあるのです。
 その晩、会社の年下男子との初デートから帰ってきたミチコですが、ミチコはもともと無類の肉好きキャラのため、黒沢がミチコに「なんだ 今日はおごりだったんだろ? 肉食わなかったのか」と、尋ねます。
「初めて二人で食事する男性の前で肉がっつくわけにはいかないでしょ」、ミチコはそう返答し、サラダしか食べていないことを報告。
 すると、たまたま自分用にスーパーで買っておいた肉をステーキにするつもりだった黒沢は、
「今から肉焼くけど」
「腹減ってるし肉うまそうだったし ステーキ肉」
「食いたいか」
 そうひとしきりミチコを煽った後に、
「だったら『このバカな私にお肉を食べさせてください 黒沢様』と言え」
 と、お決まりのドS発言! そのドSの命令に従順に従ったミチコは一切れ食べさせてもらうのでした。

スーパーの安い肉でナゼか最高の満足感を得られたワケ

 ミチコが「もう一切れくださいよ」と懇願すると、最初は「やらん」と拒否する黒沢でしたが、最終的にはあ~んして食べさせてくれるのです。少年のように屈託なく笑う黒沢の笑顔にキュンとしてしまうミチコ…………………………どうですか!?
 ステーキ欲と恋愛欲、同時に満たされると思いませんか!?
 黒沢いわく、「安い肉」だったとのことですが、きっとそのときのミチコからすれば、どんな最高級肉のステーキよりもおいしかったはず。
 もちろん、その肉が安いながらもたまたま質が良いものだったのでしょうし、黒沢の焼き方も上手かったのでしょう。ですが、そんなことよりも何より、ステーキは一緒に食べる相手とシチュエーション次第で、安かろうが何だろうが極上の満足感が得られるってことなのかもしれませんよね。
 一人で食べたり、好きでもない相手と一緒に食べたりする最高級のステーキよりも、好きな相手と笑いながら食卓を囲むことができるなら、安売りのステーキのほうがおいしいと感じることだってあるでしょう。
 ちなみに、そう感じたのはミチコだけではなかったのかもしれません。ステーキを頬張りニコニコになるミチコを見て、黒沢もほっこりして、ステーキの美味しさが倍増していたのかも…。お互いの相乗効果でステーキがおいしくなっていたのではないでしょうか!
 いずれにしても、恋愛欲とステーキ欲を同時に満たしてくれる黒沢の存在にキュンキュン&癒されつつ、「自分も好きな人にステーキを焼いてもらいたい」という願望が思わず頭をよぎった人も少なくないはず…。
 ステーキは、肉の質や焼き方も当然大事ですが、最高の“スパイス”は一緒に食べる人の笑顔なのではないでしょうか。

※情報は記事公開日時点のものです

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