日々続く人生の旅の中で、ひと際輝く時間となる“ハレの日”。
大切な人と記念日ディナーを楽しむ店は、とっておきの舞台となります。
旬の食材を用いて、創造的な料理の「旅」を構築するフレンチの名店、
【le sputnik ル・スプートニク】の髙橋雄二郎シェフに、実際に訪れたお店のなかから、
特別な日に足を運びたい4軒を紹介していただきました。
髙橋シェフが、特別な日の舞台としてまず名を挙げたのが、銀座のグランメゾン【ESqUISSE エスキス】です。
地中海生まれのフランス人、リオネル・ベカ氏がエグゼクティブ・シェフを務める【ESqUISSE】は、キュイジーヌ・ノマド(旅する料理)をテーマに、日本のフレンチシーンを牽引する一軒。「リオネルさんの料理は、特別な日に味わう皿として、心がときめく高揚感を与えてくれる。日本人の感性では思い付かないような食材の組み合わせや調理法に出会え、発見や刺激をもらえます。調理技術と味わいの素晴らしさに加え、センスの良さとプレゼンテーションも際立ち、ハレの日にふさわしいです」と、髙橋シェフは【ESqUISSE】の魅力を語ります。
訪れた日に供されたのは、コース料理の前菜『冬の花』。「以前来たときに、この皿が一番好き、とリオネルさんに伝えたので、それを覚えていてくれたんですね」と、髙橋シェフは笑顔。アンディーブ(チコリー)を花に見立て、中にフキノトウを配し、ベースには、発酵トリュフとホウレン草のムースが美しい輪を描いています。
「普通は付け合わせに使う食材、アンディーブを主役にし、フォルムまで際立たせている料理。フキノトウなどの苦味の組み合わせ方も、素晴らしい」と語る髙橋シェフに、リオネル氏は頷きながら、言葉を添えます。「アンディーブはあまり脚光を浴びない食材ですが、その世界観を展開するために、私自身、料理人を“職人”としてとらえ、チャレンジをして生まれた料理。フキノトウに醤油粕とギネスビールを合わせ、3つの苦味をミックスして味を引き締めています」。
いかにお客様に喜んでもらえるか、ということに日々向き合い、自分のオリジナリティで勝負するシェフ2人ならではの、一皿を通じての語り合いです。
旬の食材で構成するコース料理の前菜の一つ『冬の花』。冬の野菜、アンディーブで花を表現。リオネル氏オリジナルの「発酵トリュフ」がベースに配される
「発酵トリュフ」。空輸されてきたフランス産トリュフを、醤油粕・シナの木などを混ぜ合わせたもので包み、数週間発酵させてから使用する
お店のトータルな雰囲気も、特別な日の食事の成り行きや印象を左右するもの。【ESqUISSE】はその総合力も見事だと、髙橋シェフは語ります。「パティシエ、ソムリエ、サービスとも優秀なスタッフが揃っているのに、まったく堅くない。リオネルさんの温かな人柄がお店全体に溢れていて、クリエイティブだけれど温かな雰囲気のなか、リラックスしてガストロノミー(おいしい料理と食文化)を楽しめます。プロ集団でありながら、さりげなさが散りばめられた、すごく居心地のよい空間です」。
そのベースとなるのが、リオネル氏のひたむきな姿勢。「いまでも、“見習い”のような気持ちで、食材や調理に向き合っています。人の話を聞き、自分の周りをよく見て、知らないことを吸収するようにしています。そういう毎日の積み重ねから、私の料理は生まれます」と、リオネル氏。
先の『冬の花』のムースの食材は、フランス産トリュフを日本の食材に包んで数週間発酵させた、リオネル氏オリジナルの「発酵トリュフ」。一皿の背景にあるそうしたストーリーも、特別な日の味の記憶を彩ります。しかし、リオネル氏も髙橋シェフも、自ら進んで一皿の背景を語ることはないとのこと。「お客様に喜んでもらうのが料理人の仕事。裏にある手間やこだわりを前面に出さないということも、特別な日に食事を楽しむ店として心地よいですね」。そう語る髙橋シェフに、特別な日に訪れたい店を、【ESqUISSE】のほかにも3店、教えていただきました。