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至福の逸品〜dish stories〜 vol.30

春先に旬の頂を迎え、滋味に富んだ『蛤(はまぐり)』 貝料理はまぐり (東京・新宿)

寒さがまだ残る3月に無性に食べたくなる食材がある。冬の間にしっかりと栄養を蓄えた蛤である。本能に訴えかけてくるようなこの「蛤が食べたい」という欲求には、どうやら日本の食生活を長く支えてきた蛤の歴史と、意外な栄養価にヒントが隠されていそうだ。今回は日本人の舌に刻み込まれた「蛤」の旨さの秘密に迫った。

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撮影/Matt Manmoto

古くは『日本書紀』にも登場する、日本人の舌に刻み込まれた味

3月。寒さが残り、春と呼ぶにはまだ早いこの季節に旬を迎える食材、それが蛤だ。3月3日の桃の節句で「お吸い物」として家庭で食されることもあるため、春の食材というイメージはもともと強いかもしれないが、例えばスーパーなどで他の春の食材を差し置き、蛤には目が留まるという人も少なくないだろう。その本能的ともいえる蛤への渇望には、日本人と蛤の古い付き合い、歴史が関係しているようだ。歴史の書を紐解けば「日本書紀」にも登場する蛤。煮て良し、焼いて良しなうえ、調理法によってメインにも脇役に徹することもできるオールマイティーな食材がゆえ多くの食卓に並び、日本人の舌に蛤の味は刻み込まれてきた。その“親密”ぶりは京都御所にある「蛤御門」や、「その手は桑名の焼きはまぐり」といったことわざなどからもうかがい知れる。
    このように古くから日本人とともに歴史を歩み、愛されてきた食材だが、国産の蛤は現在、希少な食材になりつつある。その理由は砂浜や干潟の消滅、水質汚染。これらの影響で徐々にその姿を消しはじめ、瀬戸内海西部の周防灘の一部、有明海の一部などの局地的な生息地を除き、今や絶滅の危機に瀕した生物の仲間入りをしている。そのため、市場にあふれる蛤は朝鮮半島や中国大陸から仕入れる「しなはまぐり」がほとんど。“貝類”は鮮度がものをいうため、日本産の蛤は産地周辺でしかお目にかかれないというのが現状だ。

古くは二枚貝全体を指すものであったが、現在は特定の一種を指す蛤。大きさは殻長9p、殻高6.5pが平均。殻の色は基本的に黄褐色地に2本の褐色帯が八の字形にあるが、白や栗色の単色であったり、ごま斑やさざ波模様など様々である

冬が旬のタラバガニを目の前で捌く粋

「以前は接待や仕事帰りの上司と部下がお酒を飲みながら“つまむ”というケースが大半でしたが、最近では女性のお客様も増えてきましたね」と語るのは、【貝料理はまぐり】の越後谷広明氏。新鮮な蛤を東京・新宿で味わえるという貝好きには貴重な店の主である。築地を中心に常時25種類の貝類を仕入れる同店だが、メニューは貝料理のみ。いささか潔すぎる店にも関わらず、女性がひとりカウンター席で貝料理をつまんでいるシーンを目にするのも珍しくないのだという。そしてこれら女性客の目当てが、屋号にある「蛤」である。
    時に【貝料理はまぐり】の店内で、女性が蛤料理を頬張る訳は、味はもとより、その栄養価にも理由があるのかもしれない。蛤は貝類のなかでは鉄とともに貧血状態を改善するビタミンB1とB2が多く、鉄欠乏症貧血の防止に良いとされる。さらに骨をつくるのに欠かせないマグネシウムやリンもバランス良く含んでいるため、骨粗しょう症が心配な人にもおすすめだ。その上、エネルギーは低めと、まさに「美味しいうえ、ヘルシー」な料理を望む女性にぴったりの食材なのだ。

同じものを使っても、ちょっとした火加減で風味や食感がまったく違うものに仕上がる貝料理は、経験と腕が問われる難しい料理。右上の画像は越後谷氏の得意料理『ほっき貝のウニ焼き』

蛤の旨味だけをシンプルに味わえる『はまぐりの昆布焼』

こんなオールマイティーな食材・蛤の醍醐味をしっかりと味わうならぜひ、新宿にある【貝料理はまぐり】の『はまぐりの昆布焼』を食べてみてもらいたい。使用するのは蛤に、北海道・函館産の昆布と酒と塩を少々。シンプルに昆布の磯の香りと蛤が持つ“自力の味”だけで仕上げる。蛤は生でも食べられる鮮度の良い3種、中国産、三重県・桑名産、茨城県・鹿島産(2個)を使用する。なかでも【貝料理はまぐり】が推すのが鹿島産。他と比較して熱を入れても身が瑞々しく、味も格段に濃厚なのだという。
    「3つの産地の蛤を使用するのは、普段口にしているものと、本当にうまいものを比較できるようにするため。美味しい蛤を食べた翌日に、『最近の蛤は』って友人や知人にうんちくを話して気分良くなれるでしょ」と越後谷氏は笑う。
    こちらの料理は昆布の上に調味料を加えた状態で提供され、店のスタッフが眼前で絶妙な火加減で仕上げてくれる。蛤からしみ出す汁がぐつぐつと煮え始めると裏返し、それを手際よく二、三度繰り返す。身が縮み、ほのかに色づいたタイミングで完成。熱々の状態のものは何もつけずそのまま食べるのが正解。口にすると鼻から潮の香りが抜け、噛みしめるたびにほんのり甘く感じる蛤の旨味が広がる。お好みで、レモン汁をかけるとさっぱりと、また違った味も楽しめる。
    この料理でほんのひと時、この瞬間だけ、日本人のDNAに刻み込まれた本能を呼び起こし、古来の日本人と同じ感慨に浸ってみるのも悪くない。

酒と少々の塩、それに昆布のみというシンプルな料理ゆえ、その味付けは実に繊細。塩の「少々」の分量は同じ蛤でもその日のコンディションによって変えているという

常連客おすすめの逸品  『焼きはまぐり』

常連客おすすめの逸品  『焼きはまぐり』

焼きはまぐり
950円


こちらも中国産、桑名産、鹿島産(2個)の3種類を用意。蛤そのものが持つ旨味を堪能できるよう余計な味付けはナシ。付け合せのレモンを使わずとも十分に楽しめる。特に、旬の鹿島産の蛤のふっくらとした身の食感と、磯の香りを含んだ汁は、口にすると、しばしの間惚けてしまう。 基本、鹿島産のもの用意しているが、その種類と品数は季節や天候に応じて異なる。

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左党が思わず目を細める  『みそ玉焼き』 

左党が思わず目を細める  『みそ玉焼き』

みそ玉焼き
1780円


オーナーが青森の郷土料理「ほたて貝味噌焼」に着想を得たという開店当時からある人気メニュー。専用の土鍋を使い、旬の7種類の貝に卵、西京味噌を加え、店のスタッフが目の前で豪快にあえてくれる。出来上がるまでの工程で立ち昇る、焼けた西京味噌の甘い香りだけでも一杯呑める、酒飲み垂涎の一品。

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このページで紹介したお店

貝料理はまぐり【東京・新宿】

貝料理はまぐり 【東京・新宿】

【営業時間】
17:00 〜 23:00(L.O. 22:00)
【定休日】
日・祝日
【TEL】
03-3354-9018

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編集後記

大小、飲食店が居並ぶエリアにひっそりと軒を連ねる新宿3丁目【貝料理はまぐり】。小さいながらも“貝料理のみ”という強烈な個性で多くの店のなかでも埋もれず燦然と輝いている同店には、仕事終わりの時間ともなると老若男女が訪れる。2階には座敷席もあるが、おすすめはやや狭めの1階テーブル席。この場所の醍醐味は越後谷氏ほか店のスタッフと会話が楽しめる点。時に“わがまま”なオーダーができるとあって、常連客からは特等席として愛用されている。「あるもの、できるものなら何とか対応するよ。味の保証はしないけど」と笑う越後谷氏。こんな気取らない接客もまた、【貝料理はまぐり】の人気の秘訣なのだな、と取材時にしみじみと実感した。

貝料理はまぐり

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