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至福の逸品〜dish stories〜 vol.11

本場どぶ汁仕立ての濃厚「あんこう鍋」〜神田あじぐらなまこ屋〜

寒い冬に旬を迎える「あんこう」の、もっとも贅沢な味わい方をご存じだろうか。 昔から船の上の漁師が食していた「どぶ汁」。あんこうの美味しさの要ともいえる肝をたっぷりと使用した、コクと旨みが染みだした濃厚スープには、「骨以外捨てるところがない」と言われるあんこうが豪快に並べられた。部位ごとに違った味と食感を楽しみながら、その滋味深い味わいに思わず舌鼓。

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撮影/関 尚道

冬が旬のあんこうを丸ごと堪能する「あんこう鍋」

今年もあんこうが、冬の訪れを告げる。春に控えた産卵のため、栄養をたっぷりと蓄え、十分に肝の肥えたあんこうは、水温が下がることで身が締まり、寒い冬の時期に一番の旬を迎える。ヌルヌルとした平べったい体に大きな口、独特すぎる風貌から一見敬遠されがちなあんこう。しかし、その見た目からは想像できないほど格別な美味しさを誇り、「西のフグ、東のあんこう」と称されるほど、まぎれもない冬の味覚の代表格である。

「骨以外捨てるところがない」と言われるあんこうを丸ごと堪能するには、鍋に勝る料理はない。身肉、皮、水袋(胃)、キモ(肝臓)、トモ(ヒレ)、ヌノ(卵巣)、エラは、「あんこうの七つ道具」と呼ばれ、これらすべてが入ったあんこう鍋は、それぞれ違った味と食感を楽しむことができる。ほろほろと崩れる身は淡泊でクセがなく繊細な味わい。コラーゲンたっぷりの皮はプルプルの食感がたまらない。まさに、冬にしか味わうことのできないご馳走鍋だ。

そもそも「あんこう鍋」は、あんこうの七つ道具と野菜を、味噌、もしくは醤油で味付けして、だし汁と一緒に煮込んだ鍋料理のこと。あっさりとした味付けが多く、食べやすくてほっとする味。しかし、さらに贅沢なあんこうの味わい方がある。それは昔から船の上の漁師たちが食していた「どぶ汁」だ。「どぶ汁」は一般的に食されているあんこう鍋とは違い、あんこうと野菜から出る水分だけでつくられる。火にかけた鍋にあんこうの肝を入れて溶けるまで炒め、味噌を加え、あんこうの身から出る水分であんこうの七つ道具や野菜などの具を煮込む。そのため、あんこうの旨味が凝縮され、驚くほど濃厚な味わいが楽しめるのだ。ただ、この調理法は手間と時間がかかり、また技術がないとつくるのが困難であることから、なかなか口にすることのできない「幻の鍋」とも言われている。

この本場どぶ汁仕立ての「あんこう鍋」の味を頑なに守り続け、提供している店がある。東京・神田に店を構えて約40年の【なまこ屋】だ。

鍋の具材は、白菜、ねぎ、春菊などの野菜と、「あんこうの七つ道具」を贅沢に。部位ごとに、違った味と食感が楽しめる/たっぷりのあん肝が溶け出した濃厚スープは、じんわりと、染み入る旨さ

本場どぶ汁仕立ての「あんこう鍋」を受け継ぎ、伝える

15の年に料理人の世界へ飛び込んだ【なまこ屋】の大将、芳沢久氏は今年で料理人歴50年目のベテラン。ホテルの日本料理屋で料理長をつとめていた芳沢氏が、たまたま訪れたこの店の先代の主人がつくったあんこう鍋の味に感動し、ホテルを辞めて弟子入りを志願。その後、店を任されるようになった芳沢氏は、今こうして変わらない先代の味を受け継ぎ、我々に伝えている。

仕入れは、あんこうが一番美味しいとされる茨城からの現地直送。先代の築いた確かなルートから、上質なあんこうが届く。エサとなる魚が豊富な茨城産のあんこうは特に味がよく、また肝が大きく質のよいのが特徴。濃厚で口どけなめらかな肝は「海のフォアグラ」と称されるほどの珍味であり、あんこうの価値は肝の質で決まるとも言われている。

そんなあんこうの肝と味噌、酒で作られる【なまこ屋】のあんこう鍋は、なかなか食べることのできない、本場「どぶ汁」仕立て。肝を贅沢に使ってすりこぎですりつぶし、味噌と隠し味となる秘伝のタレを加えてベースをつくる。たっぷりと肝が溶け込んだ濃厚スープのコクと味わいは絶品。肝と味噌との相性が抜群によく、滋味深い旨みが体中に染みわたる。

【なまこ屋】に行ったら注文したいのが、あんこうを存分に満喫することのできる「あんこう尽くしコース」。新鮮さゆえに提供することのできるあんこうの刺身や、淡泊な身の旨みが引き立つ唐揚げなど、あんこうの魅力を最大限に味わうことができる。昔から変わらない手頃な価格設定も魅力だ。【なまこ屋】がお客の心をつかんで離さないのも頷ける。

運がよければ、名物のあんこうの吊るし切りが見れる。大将が手慣れた手つきで、みるみる巨大なあんこうを捌いていく姿は圧巻/鍋の他にも、「刺身」、「唐揚げ」、「共酢和え」、「あん肝入り茶椀蒸し」など、あんこうを存分に味わうことができる「あんこう尽くしコース」が人気

常連客が勧める逸品 〜あん肝〜

特大あん肝(ポン酢) 950円

特大あん肝(ポン酢) 950円
茨城産の、質がよく大きなあん肝。コクのある濃厚な味わいが口中に広がる。高たんぱく低カロリーの身に対し、あん肝は高脂肪ながらも、ビタミンAやビタミンB12、ビタミンDが豊富に含まれ、美容や健康によいとされる。

[神田あじぐらなまこ屋]の料理メニューを見る

あんこう鍋を引き立てる旨い酒 〜かめ酒〜

窓の梅(佐賀・本醸造) 1,250円

窓の梅(佐賀・本醸造) 1,250円
料理に合うお酒をと、大将自ら探し求めて出会った、こだわりの看板酒。のど越しがいいのが特徴。冬はガーベラや水仙、春は梅や桜など、添えられた季節の花で春夏秋冬が楽しめる。

[神田あじぐらなまこ屋]のドリンクメニューを見る

このページで紹介したお店

神田あじぐらなまこ屋

神田あじぐらなまこ屋 【東京・神田】

【営業時間】
ディナー 16:00〜23:00
 
ランチ 12:00〜 ※前日までに4名様以上で予約された場合のみ営業
【定休日】
日曜日
【TEL】
03-3256-7098

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編集後記

お店に着くなり、カウンター越しのキッチンに口から吊るされた巨大なあんこうの姿が目に飛び込んだ。ヌルヌルとして水分の多いあんこうは、まな板の上で泳いでさばきにくいため、時に「吊るし切り」という手法が用いられるが、【なまこ屋】では実際にその様子を見ることができる。さっそく大将の芳沢さんが吊るしたあんこうに包丁を入れた。迫力満点のあんこうがこちらを睨みつけているかのようで、一瞬目を背けたくなったが、その手さばきに、最初は委縮していた私もみるみる引き込まれていた。実際にさばく様子を目の前で見てからいただくあんこうは、また格別なものであった。

編集担当:M.M.

神田あじぐらなまこ屋

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