シェフのヨコガオ vol.07 佐竹 弘 氏

かつての巨匠が原点回帰した“下町イタリアン”

古き良き下町情緒が今なお残る東京・馬喰町の一角に、ひっそりと店を構える【レーネア】。かつては、六本木【ヂーノ】や南青山【カ・アンジェリ】でその名をとどろかせた実力派の佐竹弘シェフ。数々の名声を博しながら日本のイタリア料理界をけん引してきた巨匠が行きついたこの“下町イタリアン”で、原点回帰したシェフのヨコガオに出逢った。

撮影/永友 啓美

行きついた場所は、純粋に料理を楽しんでもらうイタリアン

古き良き下町情緒が今なお残る東京・馬喰町の一角に、ひっそりと構える店がある。グランシェフをつとめるのは、子どもの頃から好奇心旺盛で食いしん坊だったという佐竹弘シェフ。高校時代「カニを食べたい」と思いつけば、北陸へ1週間カニを食べに行く旅に出た。初めて食べたちゃんぽんが美味しくないと思った時は、本物を知ろうと長崎まで行った。佐竹シェフの食への思いと探求心は極めて強いものだった。

料理人を目指したきっかけは、高校3年の頃。目指す大学やその先の道も決まっていたが、ちょっと一休みとひとりで山に行った時、本当にこの道でいいと自分が心から思っているか疑問が生まれた。一生同じ仕事をしていくには、やはり一番好きなことを選ぶべきであり、自分にとってのそれは「食べること」だと再認識した佐竹シェフは、料理人の道へ進むことを決意。高校卒業後イタリアへ渡り、語学を学んだ後、イタリア国立ホテル調理学校で一から本場のイタリア料理を習得。その後、1年間イタリア各地を巡り、レストランで修業を重ねた。帰国後に開いた赤坂【チャオ】、六本木【ヂーノ】、そして南青山【カ・アンジェリ】では、佐竹シェフの本質的に持ち合わせる食に対する感性と惜しまぬ努力の結果、みるみるとその名をとどろかせ、日本イタリア協会会長を務めるまでの実力をつけた。

数々の名声を博しながら日本のイタリア料理界をけん引してきた佐竹シェフだが、当時はどうやって自分の皿に付加価値を付けていくかを考え、そのために試行錯誤していたという。しかし、ふと自分が本当にやりたかったことは何だったのかと自問自答した時、純粋に「料理」を楽しんでもらいたいという原点の考えに立ち返った。そして現在、佐竹シェフはこの下町イタリアン【レーネア】にて、自らの過去の名誉や肩書きを皿の上から消し、まっさらな状態で「料理」そのものを楽しんでもらうことに専念している。

「自分で好きな料理をつくり、お客様に出して、美味しいと言われること。これって原点回帰だなと思った。ここに帰れたことが幸せなんです」。そう言い切る佐竹シェフの料理は、食べる人をも幸せにする力を持つ。

佐竹弘 氏

佐竹シェフの思いが情景を呼び覚ます「景色が見える料理」

メニューのない【レーネア】でふるまわれるのは、「本日の夕食」と称した1種類のコース料理。佐竹シェフ自ら現地に行って厳選し、山形をはじめとした全国8軒の提携旅館を通して仕入れた食材を使ってつくられる。春は山菜を使うので山形から、夏は海のものを使うので石川からと、月ごとに決めたコースのテーマに合った県から、もっとも美味しい旬の食材を仕入れるという。

それぞれの場所で感じた空気、そしてその食材が育った自然環境や生産者に思いを馳せてつくられた料理をいただくと、その土地の景色が目の前に広がる気がする。「自分が本当に「美味しい」と思ったものをお客様におすそ分けしたい」。佐竹シェフの根底にあるシンプルかつ純粋な思いが、さまざまな情景を呼び覚まし、われわれを風景のなかへと誘ってくれる。佐竹シェフの料理は、一言で言うと、「景色が見える料理」なのだ。

「「美味しかったです」と言われて、「ありがとう」じゃなくて「でしょ!ここのこの魚美味しいんです」と、第三者になっている自分がいるんです」。こんな風にきさくに語る佐竹シェフの言葉が、その思いのすべてを物語っている気がした。

シェフのウラワザ〜家庭で美味しい牡蠣のパスタをつくる方法〜

【レーネア】で提供される『牡蠣の焦がしクリームスパゲッティ』。「美味しいものを食べてもらいたいから、隠す必要がない」と言いながら、なんと家庭でつくる方法を惜しげもなく教えてくださった。ポイントとなるキーワードは、『牡蠣のドリップ』と『牡蠣をよく焼くこと』。
まず、水につけていない牡蠣を1回冷凍して、解凍する。すると牡蠣のドリップが出てくる。(これが重要!)その牡蠣をドリップごと油をひいていないフライパンに入れ、カラメル化するまで焼き付ける。
入れたまま動かさないでいると、徐々に「牡蠣のおこげ」ができる。
(※写真の状態)ここで塩を少々ふり、
白ワイン、生クリームを入れて
煮溶かせばソースが完成。
「えっ、これだけで?」と思わず驚かず
にはいられないほど、牡蠣の旨みが
凝縮した絶品パスタが出来上がった。

シェフの記憶に残るシェフ〜人とのつながりを大切にする〜

佐竹シェフに「料理は楽しい」と思わせてくれたシェフ、それはイタリア国立ホテル 調理学校の先生、ダニエル・プレーダー氏だ。日本政府の召喚で数年にわたり、日本でイタリアン講座を開いていたほどの腕前を持つプレーダー氏は、イタリア人ならではの陽気で明るい性格。彼の心から料理を楽しんでつくる姿に、感銘を受けた。

在学中のある日、佐竹シェフが調理学校の生徒に対して食事をつくるという実習を行った。しかし120人分の料理を、予定とは違う料理と間違えてつくってしまった。焦った佐竹シェフがプレーダー氏に「間違えました」と報告した際に言われた一言が強く印象に残る。「料理は間違ってないね。ただ、違う料理をつくっただけ」。その言葉を聞いた佐竹シェフは、枠にはまることのない料理の本当の楽しさを学んだという。

Ristorante RENEA (リストランテ レーネア) 【東京・馬喰町】

【営業時間】
[ランチ] 11:30〜L.O.14:00 / [ディナー] 18:00〜L.O.21:30
【定休日】
日・祝
【TEL】
03-5809-1927

詳しく見る

Ristorante RENEA (リストランテ レーネア)

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